「トリプタノールって昔の薬ですよね?まだ使うんですか?」
「舌がヒリヒリするのでトリプタノール(アミトリプチリン)を処方されました。」
「ネットでは古い薬と書かれていました。」
「今はサインバルタ(デュロキセチン)の方が新しい薬なのでしょうか?」
このような疑問を持つ患者さんは少なくありません。
結論からいうと、トリプタノールは現在でも慢性疼痛の治療薬として重要な薬です。
一方で、口の渇き(口渇)や尿が出にくくなる(尿閉)、眠気などの副作用から、患者さんによってはサインバルタの方が使いやすい場合があります。
また近年は、トリプタノール・サインバルタ・リリカ(プレガバリン)を直接比較した大規模研究も行われ、「どの薬が一番効くのか」という疑問に対するデータも集まってきました。
なお、今回ご紹介する比較試験は糖尿病性神経障害性疼痛を対象とした研究です。しかし、現在の国際的な考え方では、バーニングマウス症候群(舌痛症)はICD-11で慢性口腔顔面痛に分類される慢性疼痛として位置づけられています。そのため、慢性疼痛治療で得られた知見は、舌痛症の治療を考えるうえでも参考になります。
この記事では、トリプタノールとサインバルタの違いを、慢性疼痛の考え方も交えながら分かりやすく解説します。
FAQ
Q. トリプタノールは昔の薬だから効かないのですか?
いいえ。現在でも慢性疼痛や神経障害性疼痛では重要な治療薬です。
Q. サインバルタの方が新しいので効きますか?
新しい薬ですが、「必ずしも効果が高い」というわけではありません。患者さんの状態や副作用を考えて選択します。
Q. 舌痛症でも使われますか?
はい。舌痛症(バーニングマウス症候群)の薬物療法の選択肢の一つとして用いられることがあります。
Q. リリカと一緒に飲むことはありますか?
あります。慢性疼痛では作用の異なる薬を組み合わせることは珍しくありません。
Q. 自己判断で薬を変更してもいいですか?
おすすめできません。副作用や持病、他のお薬との飲み合わせを確認しながら調整する必要があります。
今回取り上げた研究の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象疾患 | 糖尿病性神経障害性疼痛 |
| 対象人数 | 130名 |
| 研究デザイン | 多施設・二重盲検ランダム化クロスオーバー試験(OPTION-DM) |
| 主な比較 | アミトリプチリン・プレガバリン・デュロキセチン |
| 主な結果 | 鎮痛効果は3群でほぼ同等。副作用の種類に違いがあった。単剤で十分でない場合は併用でさらに改善した。 |
| 限界 | 舌痛症を対象とした研究ではなく、糖尿病性神経障害性疼痛の研究 |
この記事の要点
- トリプタノールは今でも重要な慢性疼痛治療薬
- サインバルタも慢性疼痛ガイドラインで推奨される
- 効果は大きく変わらないという比較試験がある
- 副作用の違いが薬剤選択のポイント
- 舌痛症でも慢性疼痛の考え方が参考になる
この記事はこんな方におすすめです
- 舌がヒリヒリしている
- 舌痛症と言われた
- トリプタノールを処方された
- サインバルタとの違いを知りたい
- 副作用が心配
トリプタノールは今でも「現役」の薬です
「トリプタノールは昔の薬だから、もう使われていないのでは?」
そのように思われる方もいらっしゃいます。
しかし、実際にはそうではありません。
アミトリプチリン(商品名:トリプタノール)は、慢性疼痛や神経障害性疼痛に対して長年使われてきた代表的な薬です。
日本の慢性疼痛治療ガイドラインでも、アミトリプチリンは神経障害性疼痛に対して高いエビデンスを持つ薬として位置づけられています。さらに、口腔灼熱症候群(Burning Mouth Syndrome:BMS)や非定型歯痛など口腔顔面痛領域でも、有効性が報告されてきました。
つまり、
「古い薬=時代遅れ」ではありません。
長年使われてきたからこそ、効果や副作用について多くの経験と研究が蓄積されている薬でもあります。
一方で、慢性疼痛の治療はここ十数年で大きく変わってきました。
以前は「一つの薬で痛みを治す」という考え方が中心でしたが、現在では
- 痛みの原因を考える
- 副作用とのバランスを考える
- 必要に応じて作用の違う薬を組み合わせる
という考え方が主流になっています。
その流れの中で登場した代表的な薬の一つがサインバルタ(デュロキセチン)です。
次の章では、「なぜ最近はサインバルタを選ぶ医師が増えているのか」を、副作用という視点から分かりやすく解説します。
トリプタノールの問題は「効き目」ではなく副作用です
ここまで読むと、
「それならトリプタノールだけでいいのでは?」
と思われるかもしれません。
実は現在、薬を選ぶときに重要視されているのは、
「効くかどうか」だけではありません。
「その患者さんに安全に使えるかどうか」
も同じくらい重要になっています。
慢性疼痛の治療では、数週間から数か月、場合によってはさらに長期間服用することがあります。
そのため、副作用が日常生活に大きく影響することも少なくありません。
特に注意したい副作用
トリプタノールで問題となりやすい副作用には、
- 口の渇き(口渇)
- 便秘
- 尿が出にくくなる(尿閉・排尿困難)
- 強い眠気
- めまい
- 高齢者では転倒
- 心疾患のある方では慎重な使用
などがあります。
もちろん、これらの副作用が必ず起こるわけではありません。
しかし、患者さんによっては生活の質(QOL)に大きく影響することがあります。
舌痛症では「口の渇き」が特に問題になります
当院が特に重視しているのは、
口渇(ドライマウス)です。
舌痛症の患者さんでは、
- 「舌がヒリヒリする」
- 「舌がしみる」
- 「口が乾く感じがする」
といった症状を同時に訴える方が少なくありません。
そのような患者さんに、
口が乾きやすくなる副作用を持つ薬
を使用すると、
症状の評価が難しくなったり、不快感が強くなったりすることがあります。
もちろん、口渇の副作用があってもトリプタノールがよく効く患者さんもいらっしゃいます。
そのため、
「口渇があるから絶対に使わない」
ということではありません。
しかし、舌痛症やドライマウスを専門的に診療する立場では、この副作用は十分に考慮する必要があると考えています。
尿閉や排尿障害にも注意が必要です
もう一つ見逃せない副作用が、
尿閉(尿が出にくくなること)
です。
特に、
- 前立腺肥大のある男性
- 排尿障害がある方
- 高齢の患者さん
では注意が必要になります。
排尿しにくい状態が続くと、膀胱に尿がたまり、重症の場合には尿道カテーテルが必要になることもあります。
また、腎臓へ負担がかかる可能性もあるため、持病や服用中のお薬も含めて慎重に判断する必要があります。
このような理由から、
「効く薬だから誰にでも処方する」
という考え方ではなく、
患者さん一人ひとりの全身状態を考慮して薬を選択することが重要です。
そこでサインバルタという選択肢があります
近年、慢性疼痛で使用されることが増えている薬が、
サインバルタ(一般名:デュロキセチン)
です。
サインバルタはSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)という種類のお薬で、脳や脊髄にある「痛みを抑える仕組み(下行性疼痛抑制系)」を働きやすくすることで鎮痛効果を発揮します。
慢性疼痛治療ガイドラインでは、
- 神経障害性疼痛
- 慢性腰痛症
- 変形性関節症
- 線維筋痛症
に対して有効性の高い薬として推奨されています。
さらにガイドラインでは、
「アミトリプチリンに比べて安全に使用しやすく、心疾患のある患者ではより良い選択肢である」
とも記載されています。
もちろん、サインバルタにも副作用があります。
代表的なのは、
- 吐き気
- 眠気
- 口の渇き
- 頭痛
- 倦怠感
などです。
つまり、
「副作用がない薬」ではありません。
しかし、患者さんによっては、
トリプタノールよりも使いやすいケースがあるため、現在では慢性疼痛治療の重要な選択肢となっています。
では、
実際にトリプタノールとサインバルタを比較すると、鎮痛効果に違いはあるのでしょうか。
次の章では、Lancetに掲載された大規模比較試験「OPTION-DM」をもとに、3つの薬(トリプタノール・サインバルタ・リリカ)の違いを分かりやすく解説します。
OPTION-DM試験では実際に比較されています
ここまで読むと、
「サインバルタの方が新しい薬なら、トリプタノールより効くのでしょうか?」
という疑問が出てくるかもしれません。
実は、この疑問に答えるために行われた質の高い研究があります。
それが、2022年にThe Lancetに掲載されたOPTION-DM試験です。
この研究では、
- トリプタノール(アミトリプチリン)
- サインバルタ(デュロキセチン)
- リリカ(プレガバリン)
という、慢性疼痛でよく使用される3種類の薬剤が比較されました。
対象は糖尿病性神経障害性疼痛の患者さんでしたが、現在の舌痛症(バーニングマウス症候群)はICD-11で慢性口腔顔面痛として慢性疼痛に分類されており、慢性疼痛治療の考え方を理解するうえで非常に参考になる研究です。
結果は意外でした
多くの方は、
「新しい薬の方が効くのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、この研究では、
トリプタノール・サインバルタ・リリカを中心とした3つの治療戦略で、痛みの改善効果はほぼ同等でした。
つまり、
サインバルタは「効き目が弱い代わりの薬」ではありません。
逆に、
トリプタノールが「古いから効かない薬」でもありません。
どちらも慢性疼痛に対して十分な鎮痛効果が期待できることが示されたのです。
ここは患者さんにぜひ知っていただきたいポイントです。
薬を変更したからといって、
「弱い薬になった」
という意味ではありません。
違いは「副作用」の出方でした
OPTION-DM試験で興味深かったのは、
副作用の種類が薬ごとに異なっていたことです。
代表的な副作用をまとめると、次のようになります。
| 薬剤 | 起こりやすかった副作用 |
|---|---|
| トリプタノール | 口渇、眠気 |
| サインバルタ | 吐き気(悪心) |
| リリカ | めまい |
特にトリプタノールでは、口渇が他の薬剤より多くみられました。
これは舌痛症やドライマウスを診療する立場から見ると、とても重要な結果です。
舌のヒリヒリだけでなく、
「口が乾く」
という症状を同時に訴える患者さんでは、
鎮痛効果だけでなく、副作用も考慮して薬を選択する必要があります。
もう一つ重要だったこと
この研究では、
「一つの薬だけで十分改善しない患者さん」
についても調べられています。
治療開始から一定期間たっても十分な改善が得られなかった患者さんには、
プレガバリン(リリカ)など、
作用の異なる薬剤を追加
しました。
すると、
痛みはさらに改善しました。
慢性疼痛では「薬を組み合わせる」のは珍しいことではありません
患者さんの中には、
「薬が増えたということは悪化したのでは?」
と心配される方がいらっしゃいます。
しかし、慢性疼痛では必ずしもそうではありません。
例えば、
- 神経の興奮を抑える薬
- 脳から痛みを抑える薬
- 局所で痛みを和らげる薬
など、
作用する場所が異なる薬を組み合わせる
ことは、ごく一般的な治療戦略です。
これは高血圧で、
「血圧を下げる薬を2種類組み合わせる」
ことがあるのと似ています。
一つの薬だけで無理に増量するよりも、
作用の異なる薬を少量ずつ組み合わせた方が、副作用を抑えながら効果を得られる場合があります。
OPTION-DM試験は、
このような現在の慢性疼痛治療の考え方を裏付ける研究の一つといえるでしょう。
この研究だけでは分からないこと
一方で、この研究には限界もあります。
対象は糖尿病性神経障害性疼痛であり、
舌痛症の患者さんを対象にした研究ではありません。
そのため、
「舌痛症でも全く同じ結果になる」
と断定することはできません。
しかし現在では、舌痛症もICD-11において慢性口腔顔面痛として慢性疼痛に位置づけられており、痛みの仕組みや薬物療法の考え方には多くの共通点があります。
そのため当院でも、
慢性疼痛全体で蓄積されたエビデンスを参考にしながら、
患者さん一人ひとりの症状や全身状態に合わせて治療方針を組み立てています。
舌痛症ではどのように薬を選ぶのでしょうか?
ここまで読んでいただくと、
「結局、自分にはどの薬が合うの?」
と思われるかもしれません。
実は、その答えは患者さんごとに異なります。
現在の舌痛症(バーニングマウス症候群)は、ICD-11では慢性口腔顔面痛として慢性疼痛の一つに分類されています。つまり、一つの原因だけで起こる病気ではなく、
- 神経の過敏性
- 脳や脊髄での痛みの増幅
- 睡眠の質
- ストレス
- 他の病気や服用中のお薬
など、さまざまな要素が重なって症状が続いていることが少なくありません。
そのため、
「この薬が一番効く」という考え方ではなく、その患者さんに合った薬を選ぶこと
が現在の慢性疼痛治療の基本になっています。
当院ではこのような視点で薬を選択しています
例えば、
比較的若く、口の乾きも少ない方
このような患者さんでは、
トリプタノールが十分選択肢になることがあります。
長年使われてきた薬であり、現在でも慢性疼痛ガイドラインでは神経障害性疼痛に対する有効性が高く評価されています。
ドライマウスが強い方
一方で、
- 口が乾く
- 唾液が少ない
- 舌が張り付く感じがする
といった症状が強い場合には、
抗コリン作用によって口渇が悪化する可能性も考慮します。
このような場合には、
サインバルタを優先して検討することがあります。
もちろん、絶対ではありませんが、
口腔領域を診療する立場だからこそ、副作用としての口渇も重要な判断材料
だと考えています。
高齢の方や排尿障害がある方
高齢になると、
- 転倒
- 強い眠気
- 排尿障害
- 便秘
などは生活の質を大きく低下させます。
また、
前立腺肥大などで排尿しにくい方では、
尿閉のリスクも考慮する必要があります。
そのため、
持病や現在服用しているお薬も確認しながら、安全性を優先して薬剤を選択しています。
当院では医師が薬物療法を担当しています
舌痛症で使用する薬は、
- トリプタノール
- サインバルタ
- リリカ
- クロナゼパム
- メラトニン
など、それぞれ作用する場所も、副作用も異なります。
さらに、
高血圧や糖尿病、前立腺肥大、腎機能障害、精神疾患などの持病によっても、選択すべき薬は変わります。
そのため当院では、
舌痛症の薬物療法は医師が担当しています。
口の症状だけを見るのではなく、
- 全身状態
- 現在服用している薬
- 持病
- 副作用の起こりやすさ
まで含めて治療方針を決定しています。
これは、オンライン診療であっても変わりません。
よくある誤解
「トリプタノールは古い薬だから効かない」
これは誤解です。
現在でも慢性疼痛や神経障害性疼痛では重要な治療薬です。問題になるのは「古さ」ではなく、副作用も含めて患者さんに合うかどうかです。
「サインバルタの方が新しいから必ず優れている」
これも正確ではありません。
OPTION-DM試験では、鎮痛効果は大きく変わらず、副作用の違いが薬剤選択のポイントになることが示されました。
「薬が増えたということは悪化した」
慢性疼痛では必ずしもそうではありません。
作用する場所が異なる薬を組み合わせることは、現在では一般的な治療戦略です。
まとめ
- トリプタノールは現在でも慢性疼痛治療の重要な薬です。
- サインバルタも慢性疼痛ガイドラインで推奨される治療薬です。
- OPTION-DM試験では、両者の鎮痛効果は大きく変わりませんでした。
- 薬を選ぶ際には、副作用や持病、生活背景まで考慮することが重要です。
- 舌痛症では「どの薬が一番強いか」ではなく、「その患者さんに最も適した薬」を選ぶことが大切です。
バーニングマウス症候群(舌痛症)でお悩みの方へ
「異常なしと言われたのに、舌のヒリヒリだけが続いている。」
そのような状態では、「この薬で本当にいいのだろうか」と不安になる方も少なくありません。
現在では、舌痛症はICD-11において慢性口腔顔面痛として位置づけられ、慢性疼痛として治療を考える時代になっています。薬も一種類ではなく、患者さんの症状や全身状態、副作用を考慮しながら選択することが大切です。
当院では、医師が診療を担当し、口の症状だけでなく全身状態や服用中のお薬との兼ね合いも含めて治療方針をご提案しています。
「自分にはどの薬が合うのだろう」「本当に舌痛症なのだろうか」と迷われている方のために、初回無料オンライン相談も実施しています。
まずはお気軽にご相談ください。
参考文献
- 慢性疼痛治療ガイドライン.慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ編.真興交易医書出版部,2018.
- Treede RD, et al. A classification of chronic pain for ICD-11. Pain. 2015;156:1003-1007.
- OPTION-DM Trial. Comparison of amitriptyline supplemented with pregabalin, pregabalin supplemented with amitriptyline, and duloxetine supplemented with pregabalin for diabetic peripheral neuropathic pain. The Lancet.2022.




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