舌や口の痛み・痺れ

舌のヒリヒリは保湿で治る?唾液が正常でも痛む舌痛症の原因


「舌がヒリヒリする」「口が乾く感じがするのに、歯科でも耳鼻科でも検査は正常だと言われた」「保湿剤やうがい薬を色々試したけれど、痛みは変わらない」。

そうやって何件も受診を重ね、それでも「異常なし」の一言で終わってしまい、結局また自分でインターネットなどで検索を繰り返している——。そんな経験をされている方は、決して少なくありません。

実は、口の乾く感じと、実際の唾液の量は、必ずしも一致しません。唾液が正常でも、舌痛症という病気の一症状として、乾燥感やヒリヒリした痛みが続くことがあります。現在の研究では、乾燥感のある舌痛症の方ほど痛みに敏感な傾向がみられる一方で、保湿だけで痛みが改善するとは言い切れないこともわかってきました。

この記事では、なぜ「唾液は正常」なのに口が乾いて痛むのか、そして保湿以外に何を考えればよいのかを、研究データをもとにお伝えします。


なぜ「唾液は正常」なのに口が乾いて痛むのか

舌のヒリヒリ、灼ける感じ、ピリピリした痛みが続いているのに、診察では大きな傷や炎症が見つからない。このような慢性的な口の痛みは、舌痛症と呼ばれます。

舌痛症では、痛みだけでなく、次のような症状が一緒に現れることがあります。

  • 口が乾く感じ
  • 唾液が足りない感じ
  • 舌がざらざらする
  • 苦味や金属味がする
  • 味が分かりにくい
  • 口の中が熱い
  • 食事中だけ少し楽になる
  • 夜になると痛みが強くなり、眠れない

ここで大切なのは、口が乾く感じがあっても、実際に唾液が減っているとは限らないという点です。

唾液分泌低下は、検査で実際に唾液量が少ない状態を指します。薬の副作用、シェーグレン症候群、脱水、糖尿病、加齢などが関係し、粘膜の摩擦や虫歯、飲み込みにくさにつながることがあります。この場合は、人工唾液や保湿剤、原因薬の見直しが役立ちます。

一方、口腔乾燥感は、本人が「口が乾く」と感じる自覚症状です。2025年の研究では、乾燥感のある舌痛症の方とない方の間で、唾液分泌量そのものに明確な差はありませんでした。乾燥感の強さと唾液量も一致していませんでした。つまり、口が乾く=唾液腺がうまく働いていない、とは限らないのです。

よくある誤解

「異常なしと言われたので、病気ではない」

 見た目に傷や炎症がないことと、痛みの仕組みに問題がないことは同じではありません。舌痛症では、粘膜に目立った異常がなくても、痛みや温度、乾燥感を処理する神経の働きが変化している可能性があります。

「乾燥感があるので、保湿すれば治る」

 実際に唾液が少ない方には、保湿が役立つことがあります。しかし、唾液量が正常で、乾燥感とヒリヒリが一緒に続いている場合には、保湿だけでは痛みの中心に届かないことがあります。

「精神的な問題だけで起きている」

 舌痛症は「気の持ちよう」だけで説明できる病気ではありません。痛みを感じる神経、睡眠、薬の影響、不安、生活の負担などが複雑に関係しています。

「一生治らない病気である」

症状が長く続くことはありますが、一生同じ強さの痛みが続くと決まっているわけではありません。不眠や食事、活動性、不安など、悪循環を作っている要素を一つずつ整理することで、生活しやすい状態を目指せます。

研究でわかってきたこと

2025年にScientific Reportsに掲載された研究では、女性の舌痛症患者82人を、乾燥感がある55人とない27人に分けて比較しました。乾燥感がある方は、日常生活で痛みをどの程度強く感じるかを尋ねる質問票の点数が高くなっていました。一方、舌を器具で押したときに痛いと感じる圧力や、刺激時の唾液量には、明確な差がありませんでした。

これは、乾燥感のある方の舌が単純に傷つきやすいというより、痛みを強く受け止める感覚の処理が関係している可能性を示しています。さらに、痛みへの敏感さは、乾燥感が続いている期間と関連しており、12カ月を超えて乾燥感が続くことは、自己評価上の痛みの感じやすさを予測することもわかりました。

もう一つ、唾液分泌低下のない舌痛症患者38人を対象に、尿素を含む保湿製剤と、保湿作用のある基剤を3カ月間使ってもらった研究があります。対象者には検査上の唾液分泌低下はありませんでしたが、それでも約74%に口が乾く感覚があり、痛みの強さは10点満点中平均7.58と強い状態でした。再評価できた方の一部は改善を自覚したものの、尿素製剤と有効成分の尿素を抜いた製剤を使用したグループの間で、乾燥感・痛み・唾液量に明確な違いは見られませんでした。比較対照に使った有効成分を抜いた製剤にも保湿作用があったことや、再評価できた人数が少なかったことから、この結果だけで保湿剤が無効と言い切ることはできません。それでも、唾液量が正常な舌痛症では、保湿成分を追加するだけで痛みが改善するという明確な証拠は、今のところ得られていないと言えます。

ここまでの研究だけでは、乾燥感が痛みを引き起こしたのか、痛みが乾燥感を強くしたのか、共通する神経の変化が両方を生じさせたのかは分かっていません。だからこそ、「乾燥感がある方は必ず慢性的な痛みの治療が必要」と一律には言えず、まずは本当に唾液が減っているのか、口の中に炎症や感染がないのかを確認したうえで、状態を見極める必要があります。

保湿だけで治らないとき、次に考えること

保湿剤を使っても舌のヒリヒリが続く場合、乾燥感が舌痛症の一つの症状として現れている可能性があります。この場合、保湿は一時的な心地よさや粘膜保護には役立っても、治療の中心にはなりにくいと考えられます。

そこで、次のような点を整理していきます。

  • 痛みの強さ、性質、時間帯による変化
  • 味覚異常や口の中の違和感
  • 痛みが続いている期間
  • 睡眠の質
  • 不安や気分の落ち込み
  • 痛みへの強い注意や心配
  • 食事、会話、仕事への影響
  • 使用している薬と副作用

舌痛症は、慢性的な口や顔の痛みとして扱われる病気です。国際的な慢性疼痛の分類でも、一次性の慢性疼痛や神経障害性疼痛として関連づけられています。

眠れない・不安なのは「別の悩み」ではありません

舌のヒリヒリで眠れない状態が続くと、「痛みが気になる→眠れない→疲労がたまる→痛みに敏感になる→さらに眠れない」という循環が起こることがあります。慢性疼痛の治療ガイドラインでも、痛み以外に睡眠障害や食欲低下、不安、抑うつなども伴いやすく、これらにも対処する必要があるとされています。

痛みが続けば、「悪い病気ではないか」「このまま治らないのではないか」と不安になるのは自然なことです。不安や生活環境が痛みを強めることはありますが、これは痛みが想像上のものだという意味ではありません。痛みの原因だけでなく、不安や生活、睡眠なども含めて多面的に評価し、一人ひとりに合った治療を選ぶことが大切です。

どのように治療していくのか

慢性的な痛みの治療は、薬を一つ選んで終わるものではありません。状態に応じて、痛みの神経に作用する薬、睡眠の調整、口が渇く副作用のある薬の見直し、痛みについての正しい説明、痛みに注意が集中しすぎないための工夫、食事や活動を保つ工夫、必要に応じた心理的なサポート、歯科・医科・ペインクリニック・心療内科などとの連携を組み合わせていきます。

治療の目標は、痛みを完全にゼロにすることだけではありません。副作用を抑えながら痛みと付き合い、睡眠、食事、家事、仕事などの生活を取り戻すことが重要です。「夜中に目を覚ます回数を減らす」「食事を最後まで取れるようになる」など、一人ひとりの困りごとに合わせて目標を決めていきます。

何科を受診すればよいか

口の乾燥感と舌の痛みがある場合、まずは歯科・歯科口腔外科・口腔内科で、唾液分泌低下、カンジダ症、口内炎や粘膜疾患、義歯や歯の刺激、栄養不足、糖尿病や自己免疫疾患、薬剤の副作用などを確認します。また内科や耳鼻科で血液検査をすることも必要です。これらで説明できない痛みが3カ月以上続く場合は、口や顔の痛みを専門とする医療機関が候補になります。

次のような症状がある場合は、オンライン相談だけで済ませず、早めに対面診療を受けてください。

  • 舌や口の中に治らない傷やしこりがある
  • 出血が続く
  • 急に飲み込みにくくなった
  • 舌や顔に麻痺がある
  • 体重減少や発熱を伴う
  • 首のリンパ節が腫れている
  • 強い口腔乾燥に、目や関節の症状を伴う

一方、複数の医療機関で異常なしと言われた方、すでに検査結果や診療情報がある方、遠方で専門外来へ通いにくい方、痛み・睡眠・薬の経過を整理したい方は、オンライン診療が向いています。画像検査などが必要な場合は、地域の歯科・医療機関での対面診療をご案内します。

当院での考え方

当院では、「口が乾く」という訴えだけを見て、すぐに「保湿すればよい」とは判断しません。

  • 唾液は正常と言われたのに乾いてつらい
  • 保湿剤を何種類も試したがヒリヒリは変わらない
  • 心療内科の薬を減らすべきか分からない
  • 痛みのせいで眠れない
  • 歯科では異常なし、精神科では口の症状は分からないと言われた
  • 薬の副作用なのか舌痛症なのか整理できない

こうした相談は少なくありません。まず、唾液分泌低下による乾燥と、舌痛症に伴う自覚的な乾燥感を区別します。実際に唾液が少なく、粘膜障害や感染がある場合は、保湿や原因への対応を優先します。一方、唾液量が大きく低下していないのに乾燥感と強いヒリヒリが続く場合は、保湿剤を追加し続けるのではなく、舌痛症・慢性疼痛としての評価に進みます。痛みだけでなく、不眠、不安、服薬状況、食事、活動性、副作用まで、一定期間かけて整理していきます。

この記事の要点

  • 口の乾燥感と唾液分泌低下は別の症状
  • 乾燥感は舌痛症に伴う感覚症状の可能性がある
  • 唾液量正常型では、保湿だけでは痛みが改善しないことがある
  • 不眠、不安、生活への影響も、あわせて治療の対象になる
  • 保湿で改善しない場合は、状態を整理することが大切

よくある質問

唾液が正常でも口が乾くことはありますか?

あります。口が乾くという自覚症状と、実際の唾液分泌量は必ずしも一致しません。舌痛症に伴う感覚の変化として、乾燥感が生じることがあります。

保湿剤で舌のヒリヒリは治りますか?

 実際に唾液が少ない場合や粘膜が傷ついている場合には役立つことがあります。ただし、唾液量が正常な舌痛症では、保湿だけで痛みが改善するとは限りません。

口が乾くのは精神的な問題ですか?

 心理的な問題だけではありません。神経の働き、痛みの感じ方、睡眠不足、不安、薬の影響など、複数の要素が重なっていることがあります。

眠れないと舌の痛みは悪化しますか?

 不眠は慢性的な痛みに伴いやすい症状です。痛みで眠れず、睡眠不足でさらに痛みに敏感になる悪循環が起こることがあります。

何科を受診すればよいですか?

 まずは口の粘膜疾患や唾液分泌低下を確認できる歯科・口腔外科が候補です。また血液検査ができる医療機関、耳鼻科などが候補となります。異常が見つからず痛みが続く場合は、口や顔の痛みを扱う専門外来、ペインクリニック、心療内科・精神科などとの連携が必要になることがあります。


舌のヒリヒリや口の乾燥感が続いているのに、検査では異常がないと言われると、「自分の感じ方がおかしいのではないか」と不安になる方もいらっしゃいます。

しかし、唾液量が正常でも乾燥感が生じ、痛みの感じ方と関連する可能性が研究で示されています。症状は気のせいではありません。

一方で、保湿だけを続ければよいとも限りません。乾燥、痛み、睡眠、薬の影響を分けて考えることで、次に進むべき診療が見えてくることがあります。

当院では、初回無料相談でこれまでの受診歴、検査、薬、痛みと睡眠の経過を伺い、どのような評価や医療機関との連携が必要かを一緒に整理しています。

小林オーラルクリニック院長 小林隆洋(歯科医師)


参考文献

  1. Xerostomia correlates with pain sensitivity in burning mouth syndrome patients Zhao H, Ran S, Huo W, Gan K, Li W. Scientific Reports. 2025;15:13191. DOI: 10.1038/s41598-025-97048-6
  2. The role of xerostomia in burning mouth syndrome: a case-control study da Silva LA, de Siqueira JTT, Teixeira MJ, de Siqueira SRDT. Arquivos de Neuro-Psiquiatria. 2014;72(2):91-98. DOI: 10.1590/0004-282X20130218
  3. A classification of chronic pain for ICD-11 Treede RD, Rief W, Barke A, et al. PAIN. 2015;156(6):1003-1007. DOI: 10.1097/j.pain.0000000000000160
  4. 慢性疼痛治療ガイドライン 厚生労働行政推進調査事業費補助金・慢性の痛み政策研究事業研究班監修、慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ編集. 真興交易医書出版部, 2018.
小林 隆洋

小林 隆洋

長崎大学歯学部卒業。歯科医師。 舌痛症・口腔乾燥症を専門とするオンライン歯科診療に従事しています。 慢性疼痛、口腔心身症、睡眠医学を中心に国内外の医学論文を継続的にレビューし、エビデンスに基づいた医療情報をわかりやすく発信しています。

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