舌がヒリヒリするのに異常なしと言われた方へ
「舌がヒリヒリするのに検査では異常がない」
「夜になると舌の痛みが強くなる」
「眠れない日ほど症状が悪化する気がする」
このような症状で悩まれている方は少なくありません。
近年、このような舌痛症(Burning Mouth Syndrome:BMS)は、単なる口の病気ではなく、慢性疼痛(長く続く痛み)として考えられるようになってきました。国際疾病分類(ICD-11)でも、舌痛症は慢性口腔顔面痛の一つとして位置づけられています。
また近年では、「睡眠ホルモン」として知られるメラトニンが、睡眠だけでなく慢性疼痛にも関係する可能性が報告されています。線維筋痛症を対象としたランダム化比較試験では、メラトニンが脳の痛みを抑える働き(下行性疼痛抑制系)を改善し、痛みも軽減したことが報告されています。
ただし、現時点ではメラトニンやロゼレム®(ラメルテオン)が舌痛症に有効であることを証明した臨床試験はありません。
この記事では、現在分かっている医学的根拠をもとに、
- メラトニンとはどのような物質なのか
- なぜ舌痛症で注目されているのか
- どこまで科学的根拠があるのか
を分かりやすく解説します。
この記事の要点
- メラトニンは睡眠だけでなく痛みの研究も進んでいる
- 慢性疼痛では「痛みを抑える力」の低下が問題になる
- 線維筋痛症ではメラトニンのRCTが報告されている
- 舌痛症への直接的なエビデンスはまだ存在しない
- 現時点では補助療法として今後の研究が期待される
この記事はこんな方に向けています
- 舌がヒリヒリする
- 舌痛症と診断された
- 異常なしと言われたが痛みが続く
- ロゼレムやメラトニンが気になっている
- 睡眠と舌の痛みの関係を知りたい
FAQ
Q. メラトニンは睡眠薬ですか?
睡眠を整える働きがありますが、近年では慢性疼痛との関係についても研究が進んでいます。
Q. ロゼレムはメラトニンですか?
ロゼレム®(ラメルテオン)は、メラトニンそのものではありませんが、メラトニンと同じ受容体に作用する薬です。
Q. メラトニンで舌痛症は治りますか?
現在のところ、その効果を証明した臨床試験はありません。
Q. 睡眠不足で舌のヒリヒリは悪化しますか?
睡眠不足は慢性疼痛全体を悪化させる要因の一つと考えられており、舌痛症でも関連する可能性があります。
Q. ロゼレムは歯科でも処方できますか?
いいえ。ロゼレムは医科で処方される薬であり、歯科では制度上処方できません。
今回紹介する研究
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象疾患 | 線維筋痛症 |
| 対象人数 | 63名(女性) |
| 研究デザイン | ランダム化比較試験(RCT) |
| 介入 | メラトニン、アミトリプチリン、併用療法を6週間比較 |
| 主な結果 | メラトニンは痛みと「痛みを抑える仕組み」を改善 |
| 限界 | 舌痛症を対象にした研究ではない |
舌痛症(BMS)とは?
舌痛症は、
- 舌がヒリヒリする
- ピリピリする
- やけどしたように痛む
といった症状が続くにもかかわらず、
- 虫歯
- 口内炎
- カンジダ
- がん
などの明らかな異常が見つからない病気です。
そのため、
「異常はありません」
と言われ、不安になってしまう患者さんも少なくありません。
しかし、「異常がない」という言葉は、
「痛みが存在しない」という意味ではありません。
近年では、このような痛みは脳や神経の痛みの調整機能が関係する慢性疼痛として考えられるようになっています。
国際疾病分類(ICD-11)でも、舌痛症は慢性口腔顔面痛として分類されており、線維筋痛症など他の慢性疼痛疾患とも共通する病態を持つ可能性が示されています。
よくある誤解
- 「異常なし=痛みが気のせい」ではありません。
- 「精神的な問題だけの病気」でもありません。
- 「一生治らない」と決まった病気でもありません。
最近では、慢性疼痛の研究が進み、痛みを調節する脳の仕組みや睡眠との関係について少しずつ分かってきています。
メラトニンとは?なぜ舌痛症で注目されているのでしょうか
メラトニンは、脳の「松果体(しょうかたい)」という場所で作られるホルモンです。
夜になると分泌量が増え、
- 眠くなる
- 体内時計が整う
- 深い睡眠を助ける
といった働きをしています。
そのため、「睡眠ホルモン」と呼ばれることもあります。
しかし近年では、
メラトニンは睡眠だけではなく、慢性疼痛にも関係する可能性
が注目されています。
なぜ慢性疼痛でメラトニンが研究されているのでしょうか?
慢性疼痛の患者さんでは、
- 睡眠障害
- 疲れやすさ
- 不安
- 気分の落ち込み
を伴うことが少なくありません。
慢性疼痛治療ガイドラインでも、痛みだけではなく睡眠や日常生活、精神的な負担も含めて治療することが重要とされています。
つまり、
「眠れないから痛みが強くなる」
「痛いから眠れない」
という悪循環が起こることがあります。
そのため、睡眠を整えるメラトニンにも注目が集まっています。
「脳が痛みにブレーキをかける仕組み」があります
実は私たちの脳には、
痛みを感じるだけではなく、痛みを弱める仕組み
があります。
これを医学では
下行性疼痛抑制系
と呼びます。
難しい名前ですが、
患者さんには
「脳の痛みブレーキ」
と考えていただくと分かりやすいでしょう。
例えば、
転んで膝をぶつけたとき、
最初は痛くても徐々に痛みが落ち着いてきます。
これは傷が治るだけでなく、
脳が
「このくらいの痛みなら少し弱めよう」
とブレーキをかけているためです。
舌痛症では、このブレーキが弱くなっている可能性があります
最近の慢性疼痛研究では、
この「脳のブレーキ」が弱くなることで、
少しの刺激でも痛みを強く感じる状態が続くことがあると考えられています。
慢性疼痛ガイドラインでも、
- 中枢感作(神経が痛みに敏感になる状態)
- 下行性疼痛抑制系の低下
は慢性疼痛を理解する上で重要な考え方として紹介されています。
舌痛症もICD-11では慢性口腔顔面痛に分類されているため、このような慢性疼痛の考え方を参考に診療が行われています。
メラトニンは、この「痛みブレーキ」を改善する可能性があります
線維筋痛症を対象としたランダム化比較試験では、
メラトニンを6週間使用した患者さんは、
- 痛みが軽くなった
- 脳の痛みブレーキ(下行性疼痛抑制系)の働きが改善した
ことが報告されました。
つまり研究者は、
メラトニンは「眠れるようになったから痛みが減った」だけではなく、
脳が本来持っている痛みを抑える働きを改善した可能性
があると考えています。
この点が、メラトニンが慢性疼痛領域で注目されている理由です。
ロゼレム®も同じ考え方で使われることがあります
ロゼレム®(一般名:ラメルテオン)は、
メラトニンそのものではありません。
しかし、
メラトニンと同じ受容体に作用する薬
であり、
睡眠リズムを整える目的で使用されます。
そのため、
慢性疼痛の患者さんで
- 寝付きが悪い
- 夜中に何度も起きる
- 睡眠不足で痛みが悪化している
という場合に、
睡眠改善を目的として使用されることがあります。
ただし、
ロゼレムが舌痛症そのものを改善することを証明した臨床試験は現在ありません。
現時点では、
慢性疼痛という大きな考え方から、
睡眠と痛みの悪循環を改善する補助療法
として期待されている段階です。
研究で分かったこと
ここまで読むと、
「では、メラトニンは舌痛症にも効くのでしょうか?」
という疑問が出てくると思います。
結論から言うと、
現時点では「効く」と断定できる段階ではありません。
しかし、慢性疼痛の研究から考えると、舌痛症でも参考になる知見が少しずつ集まってきています。
【論文で示された内容】
今回ご紹介した研究では、線維筋痛症の患者さん63名を対象に、
- アミトリプチリン
- メラトニン
- アミトリプチリン+メラトニン
の3群に分けて6週間比較しました。
その結果、
メラトニンを使用した患者さんでは
- 痛みが改善した
- 圧痛(押したときの痛み)が改善した
- 線維筋痛症による生活への影響が改善した
- 「脳の痛みブレーキ(下行性疼痛抑制系)」の働きが改善した
ことが確認されました。
研究者らは、
メラトニンが睡眠を改善したことだけではなく、
痛みを調節する神経の働きにも影響した可能性
を考察しています。
【この研究で分からないこと】
一方で、
この研究だけでは分からないこともあります。
例えば、
- 舌痛症にも同じ効果があるのか
- 長期間飲み続けるとどうなるのか
- どのような患者さんが最も効果を得られるのか
- 睡眠改善だけで痛みが減ったのか、それ以外の作用なのか
までは証明されていません。
つまり、
「線維筋痛症では有望な結果だった」
ということは言えますが、
「舌痛症にも効く」とまでは言えない
というのが現在の医学的な結論です。
睡眠・不安・生活習慣も痛みに影響します
慢性疼痛では、
痛みだけを治療するのではなく、
- 睡眠
- 不安
- ストレス
- 日中の活動量
なども重要になります。
慢性疼痛治療ガイドラインでも、
長く続く痛みでは、
睡眠障害や活動量の低下、不安などが互いに影響し合い、
症状が長引くことがあると説明されています。
そのため、
薬だけではなく、
- 睡眠を整える
- 昼夜逆転を改善する
- 適度に体を動かす
- 必要に応じて心理的サポートを受ける
ことも慢性疼痛治療では大切です。
メラトニンはどのような患者さんに向いている可能性がありますか?
現時点の研究から考えると、
次のような患者さんでは、
今後研究が期待される薬剤と言えます。
- 舌のヒリヒリと不眠が同時にある
- 夜になると痛みが強くなる
- 睡眠不足で症状が悪化する
- 慢性的な疲労感がある
- 慢性疼痛として総合的な治療が必要と考えられる
ただし、
これは現時点の研究から推測される可能性であり、
舌痛症への有効性が証明されたわけではありません。
副作用はありますか?
メラトニンは比較的安全性が高いと考えられていますが、
- 日中の眠気
- ふらつき
- 頭痛
などがみられることがあります。
また、
ロゼレム®(ラメルテオン)は日本で承認されている睡眠薬ですが、
他の睡眠薬との飲み合わせや、
肝機能障害など注意が必要な場合もあります。
自己判断で市販のサプリメントを大量に使用するのではなく、
医師と相談しながら使用することが大切です。
当院での考え方
当院では、
舌痛症を
「舌だけの病気」
とは考えていません。
実際の診療でも、
- 「痛みで眠れない」
- 「眠れない翌日は特にヒリヒリする」
- 「ストレスが強い日に悪化する」
という患者さんは少なくありません。
そのため、
舌だけを見るのではなく、
睡眠・痛み・生活全体をまとめて評価すること
を重視しています。
また、
ロゼレムやメラトニン受容体作動薬、
SNRI(デュロキセチンなど)、
プレガバリン、
三環系抗うつ薬などは、
歯科では制度上処方できない薬剤です。
そのため、
睡眠障害や慢性疼痛の関与が疑われる場合には、
医科の薬物療法も含めて評価できる体制が重要になります。
当院では、口腔顔面痛の診療経験をもとに、必要に応じて医科との連携も視野に入れながら、一人ひとりの症状に合わせた治療方針をご提案しています。
受診の目安
舌のヒリヒリが続く場合は、まず原因となる病気が隠れていないか確認することが大切です。
まず歯科・口腔外科で確認したいこと
- 口内炎
- カンジダ症
- 虫歯や歯周病
- 合わない入れ歯や被せ物
- 金属アレルギー
- ドライマウス
- 貧血やビタミン不足 など
これらが否定されても症状が続く場合には、舌痛症(BMS)を含めた慢性口腔顔面痛を考える必要があります。
早めの受診が必要な症状
次のような症状がある場合は、舌痛症だけとは限りません。
- 舌に潰瘍やしこりがある
- 出血が続く
- 急激に症状が悪化した
- 飲み込みにくい
- 片側だけ強い痛みがある
- 発熱や全身症状を伴う
このような場合は、まず器質的な病気を除外することが優先されます。
オンライン診療が向いている方
舌痛症では、
- 検査では異常がない
- 症状が数か月以上続いている
- 複数の医療機関を受診している
- 睡眠やストレスとの関係を詳しく相談したい
という方も少なくありません。
このような場合は、じっくり経過を伺いながら治療方針を考えるオンライン診療も選択肢になります。
まとめ
- メラトニンは睡眠だけでなく慢性疼痛の研究も進んでいる
- 線維筋痛症では痛みの改善を示したRCTが報告されている
- 「脳の痛みブレーキ」を改善した可能性が示唆されている
- 現時点では舌痛症への有効性は証明されていない
- 今後の研究が期待される補助療法の一つである
舌痛症(バーニングマウスシンドローム)でお悩みの方へ
舌痛症は、
「異常がないと言われたのに痛い」
という不安を抱えやすい病気です。
最近では、舌だけではなく、慢性疼痛という視点から治療を考える研究が世界中で進められています。
メラトニンやロゼレムも、その流れの中で注目されている薬剤の一つです。
ただし、現時点では舌痛症に対する有効性を証明した十分なエビデンスはありません。
そのため、睡眠や生活習慣、痛みの経過を総合的に評価しながら、一人ひとりに合った治療を考えていくことが重要です。
当院では、舌痛症・口腔顔面痛を専門的に診療しており、睡眠障害や慢性疼痛との関係も含めて評価しています。
また、ロゼレム(ラメルテオン)やデュロキセチン、プレガバリン、三環系抗うつ薬などは歯科では制度上処方できない薬剤です。
そのため、必要に応じて医科での治療も含めてご提案できるよう、慢性疼痛という視点から診療を行っています。
「異常はないと言われたけれど、痛みが続いている」
そのような方は、一人で悩まず一度ご相談ください。
参考文献
- de Zanette SA, Vercelino R, Laste G, et al. Melatonin analgesia is associated with improvement of the descending endogenous pain-modulating system in fibromyalgia: a phase II, randomized, double-dummy, controlled trial. BMC Pharmacology and Toxicology. 2014;15:40.
慢性疼痛治療ガイドライン
厚生労働行政推進調査事業「慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究」研究班/慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ. 真興交易医書出版部. 2018.- Treede RD, Rief W, Barke A, et al. A classification of chronic pain for ICD-11. Pain. 2015;156:1003-1007.


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