舌や口の痛み・痺れ

舌痛症の原因を神経から歯科医師が解説

舌がヒリヒリするのに、歯科では「異常なし」と言われたことはありませんか?舌痛症では、見た目に分からない細い神経の異常、脳の痛み処理の変化、不安・睡眠・自律神経による痛みの増幅が、単独または重なっている可能性があります。2026年時点で、今回取り上げる2本の論文から読み取れる神経学的な見方を、簡単に解説します。

よくある質問

ストレスが舌痛症の原因ですか?

ストレスだけが原因とは言えません。神経の異常がある患者さんも多く、不安やストレスは痛みを強める要因になり得ます。

「異常なし」と言われました。気のせいですか?

気のせいとは限りません。通常の診察では見えにくい細い神経や、脳の痛み処理に変化がある可能性があります。

精神科に行くべきですか?

全員に必要なわけではありません。不安、抑うつ、不眠が強い場合は、心療内科・精神科の評価を組み合わせることがあります。

眠れないと悪化しますか?

舌痛症患者では睡眠の悪化が報告されています。ただし、睡眠不足が原因なのか、痛みで眠れないのかは確定していません。

何科を受診すればよいですか?

まず歯科・口腔外科で口の中の原因を確認します。原因が見つからなければ、神経・慢性疼痛・睡眠・心理面を医師が評価する流れが合うことがあります。

今回取り上げた研究の要約

項目Madariagaら 2020Orliaguetら 2021
対象疾患原発性舌痛症原発性舌痛症
対象13原著+1抄録。8研究をメタ解析。総患者数は一括提示なし113論文。総患者数は一括提示なし
研究デザインシステマティックレビュー・メタ解析システマティックレビュー
主な結果温覚・冷覚の差から小線維障害を示唆。中枢性感作の所見も一部に存在末梢神経、中枢神経、心理、自律神経の要素が単独または複合して存在する可能性
限界検査法のばらつきが大きく、多くは中等度のバイアスリスク研究が不均一で、因果関係や各タイプの割合は不明

Madariagaらは13原著と1抄録を採用し、8研究を解析しました。 温覚・冷覚検出の差は示されましたが、研究方法の異質性が大きく、エビデンスは強くないと評価されています。 Orliaguetらは113論文を検討し、神経の要因と心理的な要素が患者さんによって単独または同時に存在するとまとめています。

この記事の要点

  • 舌痛症は一つの原因だけでは説明できません
  • 舌の細い神経に異常がある人がいます
  • 脳の痛み処理が過敏になる場合があります
  • 不安・不眠・自律神経は増幅因子になり得ます
  • 歯科と医科の両方からの評価が大切です

この記事はこんな方に向けています

  • 舌がヒリヒリ、焼けるように痛む
  • 口の中に異常がないと言われた
  • 痛みが3カ月以上続いている
  • 不眠や不安とともに痛みが強くなる
  • 何科へ相談すべきか迷っている

舌痛症とは

舌痛症、またはバーニングマウスシンドロームとは、舌や口の中に焼けるような痛みや違和感が続く一方で、症状を説明できる明らかな病変が見つからない状態です。

国際的な定義では、1日2時間を超える症状が3カ月以上繰り返され、診察で原因となる病変が確認できないことが基準に含まれます。

大切なのは、「見た目に異常がない」と「痛みを生む仕組みに異常がない」は別だということです。

細い神経の機能や、脳が痛みを処理する方法は、口の中を見ただけでは分かりません。

よくある誤解

異常なし=異常がない

目で見える病変がないという意味であり、神経機能まで正常と証明したことにはなりません。

ストレスがある=心因性

神経の客観的な変化を示す研究があります。心理的要因は、原因そのものではなく、痛みを増幅・維持する要因として働く場合があります。

脳の変化=脳が壊れている

研究で示されたのは、患者群と健常群で脳の構造や活動に差があったということです。原因なのか、長く痛んだ結果なのかは分かっていません。

2026年時点で考えられる3つの要素

1.末梢神経そのものの異常

舌には、温度や痛みを伝えるAδ線維とC線維という細い神経があります。いわば、冷たさ、熱さ、ヒリヒリ感を脳へ伝える「細い配線」です。

舌の組織を調べた研究では、一部の患者で上皮内の神経線維の密度が低く、残った線維では刺激を受け取る受容体というパーツに変化がみられました。

角膜の細い神経を調べる検査でも、神経線維の密度と長さの低下が報告されています。

温度を変えて感覚の境目を測る定量的感覚検査でも、舌痛症患者と健常者の温覚・冷覚に差があり、小線維ニューロパチー、つまり細い感覚神経の障害が示唆されました。

ただし、全員にこの異常があるわけではありません。感覚異常を示さない人もおり、小線維障害は舌痛症の一部のタイプを表している可能性があります。

2.中枢神経系の変調とは

中枢神経系とは、脳と脊髄のことです。

痛みの信号が長く入り続けると、脳や脊髄が敏感になり、小さな刺激まで痛く感じることがあります。これを中枢性感作と呼びます。

患者さん向けには、「痛みの音量つまみが上がり、下がりにくくなった状態」と考えると分かりやすいでしょう。

脳画像研究では、視床、前帯状皮質、島皮質、前頭前野、海馬・扁桃体など、痛みや感情に関わる領域で、灰白質量、血流、活動、神経回路のつながり方に違いが報告されています。

また、刺激を繰り返すほど痛みが強くなる反応など、中枢性感作を示唆する所見も一部にあります。

ただし、脳画像だけで一人の患者さんを診断することはできません。これらの変化が痛みの原因なのか、痛みが続いた結果なのかも不明です。

3.心理・睡眠・自律神経による修飾とは

舌痛症では、不安、抑うつ、痛みへの強い注意、睡眠の悪化が多いとする研究があります。

心拍のゆらぎを調べた研究では、自律神経の不安定さも報告されています。 睡眠の質が健常者より悪く、不安や抑うつとの関連を示した研究もあります。

ここでいう「修飾」とは、心理的な問題が痛みをゼロから作ると断定する意味ではありません。

すでにある痛みを強く感じさせ、注意を外しにくくし、体を緊張状態に保つことで、痛みを長引かせる可能性があるという意味です。

心理面への治療は「気のせいだから」行うのではなく、痛みを増幅する部分を弱め、悪循環を切るために行います。

舌痛症で考えられる負のスパイラル

2本のレビューと慢性疼痛治療ガイドラインを踏まえると、次の循環が考えられます。

末梢神経の異常
↓
舌から異常な信号が続く
↓
中枢性感作・疼痛回路の再編成
↓
小さな刺激まで強く痛む
↓
痛みへの過剰な警戒、不安、睡眠障害
↓
痛みから注意を外しにくくなる
↓
脳から痛みを弱めるブレーキが働きにくくなる可能性
↓
さらに痛みが強くなる

慢性疼痛治療ガイドラインでも、痛みが長引くと心理社会的要因との循環的な相互作用によって難治化・重症化し、睡眠障害、不安、抑うつ、活動性低下などが循環の一部になると説明されています。 

ただし、この順番がすべての舌痛症患者で証明されたわけではありません。

また、今回の2レビューは、舌痛症で「痛みを抑えるブレーキ」の低下を直接証明したものではありません。ここは、慢性疼痛の仕組みを患者さん向けに整理した説明モデルです。

研究で示されたこと/分からないこと

【論文で示された内容】

  • 一部の患者で細い神経線維が減っている
  • 温覚・冷覚に健常者との差がある
  • 中枢性感作を示唆する所見がある
  • 痛みに関わる脳領域に有病者とそうでない人の間で差がある
  • 不安、睡眠、自律神経との関連がある

【この研究で分からないこと】

  • どの変化が最初の原因なのか
  • 各タイプが何%いるのか
  • 一つの検査で病態を判定できるか
  • 病態別にどの治療が最適か
  • 長期的な予後

検査方法のばらつきが大きく、研究の多くは中等度のバイアスリスクでした。

何科を受診すればよいのか

まず歯科・口腔外科で、口腔内に原因となる病変がないか確認します。まだ対面診察を受けていない場合は、オンラインだけで判断しないことが大切です。

見える病変がある、感染や外傷が疑われる、急速に悪化している場合は、対面診療を優先してください。

慢性疼痛ガイドラインも、悪性腫瘍、感染、外傷などを除外し、正確に病態を把握することを重視しています。

歯科的な原因が見つからず、末梢神経障害や中枢性感作が疑われる場合は、神経内科、ペインクリニック、慢性疼痛を扱う医師の視点が役立つことがあります。

不安、抑うつ、不眠の影響が強い場合は、心療内科・精神科の評価を組み合わせます。

これは「精神的な病気」と決めるためではなく、複数の要素を確認し、その人に合う治療を選ぶためです。慢性疼痛では、神経障害性要因と心理社会的要因が混在することが多いとされています。

オンライン相談が向くケース

  • 対面の歯科診察で原因が見つからなかった
  • これまでの検査や治療を整理したい
  • 次に歯科と医科のどちらへ行くか迷う
  • 不眠、不安、口の乾き、味覚変化もある
  • 遠方で、まず経過を相談したい

当院での考え方

当院では、舌痛症を「舌だけの病気」「心理だけの病気」と決めつけません。

これまでの歯科診察で何が除外されているかを確認し、痛みの場所、日内変化、食事との関係、口の乾き、味覚、睡眠、不安、服薬状況を整理します。

初回オンライン相談は診断を断定する場ではなく、対面の歯科診察がさらに必要か、神経・慢性疼痛をみる医師の治療が合いそうか、心療内科・精神科との連携が必要かを整理する入口です。

歯科的なスクリーニングで原因が見つからないのに、ヒリヒリ感や灼熱感が続く場合は、医科の視点を加えることで別の選択肢が見えることがあります。

まとめ

  • 舌痛症は単一の原因では説明できません
  • 一部では舌の細い神経に異常があります
  • 脳の痛み処理が過敏になる場合があります
  • 不眠や不安は増幅因子になり得ます
  • 歯科と医科を分けずに整理することが大切です

バーニングマウスシンドロームでお悩みの方へ

「異常なしと言われたのに痛い」「ストレスのせいと言われて納得できない」「次に何科へ行けばよいか分からない」という悩みは珍しくありません。

当院の初回オンライン相談では、これまでの診察・検査・治療経過を整理し、歯科的な再評価が必要か、医師による神経・慢性疼痛・睡眠・心理面の評価が適しているかを一緒に考えます。

受診先に迷っている場合は、相談の入口としてご利用ください。

参考文献

  1. Madariaga VI, Tanaka H, Ernberg M. Psychophysical characterisation of burning mouth syndrome—A systematic review and meta-analysis. Journal of Oral Rehabilitation. 2020;47:1590–1605. DOI: 10.1111/joor.13028. 
  2. Orliaguet M, Misery L. Neuropathic and Psychogenic Components of Burning Mouth Syndrome: A Systematic Review. Biomolecules. 2021;11:1237. DOI: 10.3390/biom11081237. 
  3. 慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ編.『慢性疼痛治療ガイドライン』真興交易医書出版部,2018.
小林 隆洋

小林 隆洋

長崎大学歯学部卒業。歯科医師。 舌痛症・口腔乾燥症を専門とするオンライン歯科診療に従事しています。 慢性疼痛、口腔心身症、睡眠医学を中心に国内外の医学論文を継続的にレビューし、エビデンスに基づいた医療情報をわかりやすく発信しています。

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